2025/07/09 14:59
Q:
世間では、乳酸鉄やピルビン酸鉄を添加した鉄分強化食品が出回っています。
これら人工的に鉄分を添加した食品は、鉄分過剰摂取の危険性はないのでしょうか?
また、加工していない自然の形態の食品や、昔ながらの鉄鍋などで調理をした料理によって摂取される鉄の場合には、上記の「人工的な鉄添加食品」と同様のことが生じる恐れはどれほどありますか?
人工的に添加する鉄と、自然形態の食品に天然に含まれている鉄の違いを解説してください。
A:
鉄の摂取における「人工的に添加された鉄(栄養強化鉄)」と「自然の形態で含まれる鉄」には、生体内での吸収挙動・調整機構への関与・副作用リスクの面で大きな違いがあります。以下に整理してご説明します。
✅1.人工的に添加された鉄(乳酸鉄・ピルビン酸鉄など)
● 例:
* 乳酸鉄(フェリル鉄)
* ピルビン酸鉄
* ピロリン酸第二鉄
* クエン酸鉄
* フマル酸鉄(医薬品レベル)
● 特徴:
・吸収効率が高い場合がある…有機酸鉄は水溶性で胃腸からの吸収効率が比較的高い。特に空腹時。
・調節機構が働きにくい場合がある…過剰な量が一気に入ると、フェリチンなどの鉄制御機構が対応しきれない。
・酸化ストレスや便秘などの副作用…非ヘム鉄(特に遊離鉄)が腸内でフリーラジカルを発生し、腸管を刺激することがある。
・腸内環境に悪影響を及ぼす可能性…鉄は特定の悪玉菌(例:大腸菌)の増殖因子でもある。過剰だと腸内フローラが乱れる可能性。
・鉄過剰の懸念…長期の無自覚摂取で肝臓・心臓への蓄積(鉄沈着症)や糖代謝障害のリスクがある。
✅2.自然な食品に含まれる鉄
● 例:
* 赤身肉・レバー・魚介(ヘム鉄)
* 豆類・緑黄色野菜・全粒穀物(非ヘム鉄)・抹茶などの茶葉
* 昔ながらの鉄鍋で調理した料理
● 特徴:
・吸収が調整されやすい…腸管に存在する「鉄輸送体」は、体内の鉄貯蔵状態を感知して、吸収量を自動的に調整する。 |
・食品中の他成分とのバランス…鉄と一緒に亜鉛・銅・ポリフェノール・ビタミンCなど、吸収や利用に関与する因子も自然に含まれる。
・鉄過剰のリスクが極めて低い…食材由来の鉄は吸収効率が高くなく、体の必要量以上にはほとんど吸収されない。
・鉄鍋からの鉄は非ヘム鉄…わずかずつ溶出するが、調整可能な範囲で、鉄毒性のリスクはほぼなし。酸性の食品(酢やトマト)使用で増加。
✅3.鉄の吸収・排出の生体調節
人体には鉄の吸収を厳密に制御する機構があります:
* ヘプシジン(肝臓から分泌されるホルモン)が、鉄の吸収を制御。
* 過剰時は吸収を抑制し、不足時に吸収を増加。
* ただし、この機構は医薬品やサプリなどからの高用量摂取には間に合わない場合がある。
✅4.まとめ:両者の違い
🔍補足:鉄分過剰症の初期サイン
* 慢性的な便秘・吐き気
* 体の重だるさ
* 皮膚の色素沈着
* 肝機能異常(AST・ALT上昇)
* 血糖コントロールの乱れ
🔚結論
* 人工的に鉄を添加した食品(サプリ含む)は、継続摂取による過剰リスクがあるため、医師や栄養士の監督の下で使用するのが理想的です。
* 一方で、昔ながらの鉄鍋や自然食材から摂取される鉄は、安全性が極めて高く、吸収も自然に調整されるため、日常的な鉄補給には最も安心な方法です。